転職相談をしていてとても難しいなあと思うのが、「ミドルの転職」です。ミドルというと35歳くらい~45歳位でしょうか、最近、このミドル層の転職相談が増えています。

統計は取っていませんが、肌感として、弊社に相談に来る方の転職理由として一番多いのは「通勤時間を減らしたい」という内容だと感じます。
生活スタイルや働き方への価値観が変化してきて、許容できる通勤時間も変わってきています。東京都への人口流入が増えている背景には、今の仕事に満足している人が長い通勤時間を嫌って都内に引っ越すというケースもあるのでしょうね。
最近ではコロナ禍でリモートワークを経験し、通勤しなくても仕事ができるということを感じるケースが増えているので、余計に通勤したくなるのかもしれません。さらに、ミドルの年代になると生活環境が変わったり、若干体力の衰えを感じたりと、節目を迎えやすい時期にもなってきます。

ちなみに、エン・ジャパンが求人サイト「ミドルの転職」で行ったユーザーアンケートでは、給与・待遇のUP」が転職理由としては一番大きいようです。「通勤時間」が大きな焦点になるのは、地域密着の弊社の特徴が現れていますね。


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そんなミドルからの転職相談で、対応が難しいと感じるのが、異業種や異職種へのキャリアチェンジです。
これまでの経験を活かして、同じ業種や同じ職種でキャリアアップしたいということであれば、相談にも乗りやすいのですが、勤務地」や「働き方」を重視して、「業種」や「職種」を変えたいという相談も多いのです。

ここで一番お伝えしたいのは、焦ってはだめということ

先日、相談に来られた45歳の男性の方も、IT技術職から事務職への転職を希望されていたのですが、転職の希望時期を聞いたところ、「1,2ヶ月で転職できれば」とのことで、「ちょっと待って!」と慌てて止めました。

その方が転職をしたい理由としては大きく次の2つでした。
・通勤時間を減らしたい(現在片道2時間)
・今の仕事がいつまで続くか不安がある(SESによるお客様先常駐)

給与は減っても良いので、通勤1時間圏内で安定した仕事に就きたいと考えている。なので、40代で応募できる事務系の求人を紹介してほしいと。

いやいや、ちょっと待ってください!ですね。
焦りすぎです。

通勤時間を減らしたいのもわかりますし、SESの仕事で先行きに不安を感じていることもわかります。
でも、突っ込みどころ満載です。
・なぜ、事務系の仕事を選ぶの?
・なぜ、事務系の仕事は安定していると思うの?
・今の会社で状況を改善する方法はないの?
・住む場所を変えるという選択肢はないの?(これは一番受け入れがたいのだと思いますが)
などなど。

結局、この方には、求人市場の状況や企業の採用基準などのお話をし、
・勤務地の近い同じSESの仕事に就く
・(できれば勤務地の近い)異業種の仕事に就く
・今の職場に残る
といったケースついてそれぞれの可能性や今後の展望を探るところから再スタートしました。

結果、今の職場に残ることも含めて再検討となりました。求人の紹介依頼に対して、求人をご紹介することなく終わったのですが、急いで転職したいという思いは止められたので、それは良かったのではないかと思います。

ミドルの転職こそ、転職活動の基本的なプロセスを見直すことが大事です。若者のように勢いでうまくいくということは少ないですから。

私の学んだCDA(キャリアカウンセラー資格)の考えるキャリアプランニングには7つのステップがあります。
1.意思決定の必要性の自覚
2.自己の再評価
3.職業・仕事の特定
4.選択肢に関する情報収集
5.仮決定
6.教育・訓練
7.就職・異動

1や2を飛ばしていきなり3に行く方が結構多くいらっしゃるのですが、しっかりプロセスを踏むことが大切です。
この方も自分なりに考えた上で転職しようという意思決定をされたわけですが、お話を伺うと、2を抜きに3に行ってしまった感がありますね。

1の「転職の意思決定」に関してですが、ミドルにおいては、想定外な変化によって予期せぬキャリアチェンジを強いられることもあると思います。その時に大事なのは、キャリア学の権威である高橋俊介氏のおっしゃっていることが参考になりますが、明確な「仕事観」を持つことだと思います。

仕事観とは簡単に言うと「あなたにとって仕事とはなんですか?」という質問に対する答えなわけですが、この仕事観をしっかり持っていれば、想定外の変化が起きた時に、その変化に振り回されたり、落ち込むのではなく、主体的に自身の役割や仕事なすべきことを再定義できるのです。

ですので、自分自身の「仕事観」をもう一度見つめ直してみるということをしてみることをお勧めします。

転職を検討する際は得てしてモチベーションが落ちている状態でもありがちですが、モチベーションが下がっていると、「自分は何のために仕事をしているのか」という根本を忘れがちになるもの。社会人になりたての若者とは違って、多くの経験を積んでいるミドルとして見られる訳ですから、仕事に主体性を持って取り組んでいるかどうかも大きな評価の分かれ目となりますしね。

ちなみに高橋氏によると「仕事観」は大きく3つに分類できるとのことです。

・内因的仕事観
「やりがい」「成長」「関係性」「認知承認」「仕事内容」など自分にもたらせる心理的報酬、自分にとっての心理的な価値の源泉という考え方。
・功利的仕事観
仕事自体は手段であって、その結果、現実的な何かを得たいという功利性に基づく考え方。
・規範的仕事観
そもそも仕事は自分のためにするのではなく、人のためにするものという考え方。

この3つの考え方をベースに、自分自身の仕事観を明確に持つことが、キャリアチェンジにうまく適応できる武器となりますので、焦らずまずは、「自分は何のために仕事をしているのか」を見つめ直すことから始めることが大事です。

ちなみに、仕事観とキャリア満足度の相関は年齢と比例して高くなっていくそうです。キャリア満足度を高めるためには、年齢を重ねるほどにしっかりとした仕事観の形成が重要だということですね。

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種村 剛(ちばキャリ キャリアコンサルタント)

大学卒業後、大手損害保険会社に入社。営業職として4年勤務した後、コンサルティング会社に転職。その後、2003年より現在の会社で営業や制作、キャリアアドバイザーに従事。 数多くの中小企業の採用活動に携わり、企業経営者、人事担当者の視点に立った転職サポートを行うことがモットーにしています。

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